これを『運命の恋』と呼ばないで!
右カーブを曲がって直ぐ、背の高い茂みの奥から鹿の顔が覗いた。

すぐにハンドルを切り、避けたつもりでいたのに、鹿は無情にも私の車に突進してきてーーー



『えっ………』



ゴンッ!と鈍い音を立てて体当たりされた私の車は、反動で大きく反対車線に逸れ、軽い弧を描きながら元の車線へ戻った。

ハッとして前を見ると、フロントガラスには追突された時に飛び散ったと思われる鹿の毛と、微かに見えた大きな角で削られた傷と凹みがあって。


『ひぃぃぃぃぃ……!!』


幸いにもガラスは割れてなかったけれど、ボンネットは衝撃で大きく反り返り、サイドミラーに至ってはいつの間にか内側へ折り畳まれている始末。


それでも。

ぶつかった恐怖から車を停めることも出来ずに山道を走り抜け、現場から1キロくらい離れた場所で車を停めて降りた。



『うっそぉ……』


鹿がぶつかった車体の左半面は大きくボディが歪んでいた。

ドアには気持ちが悪くなりそうな程の鹿の毛がこびり付き、あろう事か血っぽい赤色までが付着している。

加えて嗅いだこともない獣臭までが漂い、『うっ』と気持ちが悪くなってしまった。



『どうしよう…』


眺めていたところで解決する訳でもなく、その場で直ぐに保険会社に連絡をしてみると。


『車が動かせるなら自力で修理工場まで持って行って下さい』


レッカー移動するには時間がかかり過ぎる場所だと言われてしまった。


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