これを『運命の恋』と呼ばないで！
何度かルームシェアしようと誘われたことがある。
でも、誰かと一緒に暮らすよりも、やはり独り暮らしがしたくて断った。



「はい、お待ちどうさま」


コトッと音を立てて皿が置かれた。
トマトソースのかかったラビオリにはチーズがタップリと乗っている。


「美味しいそう！」

「この後、サラダとメインを持ってくるから」


レストランのメインシェフ鶴井 恭平（つるい きょうへい）さんは、ニコッと笑みを浮かべて逃げて行った。


「食べよう、食べよう」


智花は何も気づいてないようだけれど、鶴井さんは智花のことをすごく気に入っている。

智花と店に来るとそれが分かる。
だって、いつも彼女の好きそうな物が出てくるから。


「うーん、美味しい！最高！」


私なんかとルームシェアするよりも鶴井さんと一緒に住んだ方がいい。
彼なら智花の才能を認めてるし、お互いに高め合っていける相手だ。



（恋に発展して欲しいのは二人の方だよ）


そう思いながら口の中に放り込む。
濃厚なトマトソースとチーズが絡んだラビオリは、噛むと同時につるんと喉の奥にしまい込まれていった。


「美味しいね」


そう言いながらも牛丼屋で食べた浅漬けには負けるなと考えている。
あの夜の記憶は鮮明過ぎて、なかなか心から離れていってくれない。

きっと、いつもは鬼みたいな先輩と二人で食事をしたのが初めてで何かと印象深かったせいだ。


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