これを『運命の恋』と呼ばないで!
翌日からは気を引き締めて仕事をした。
鬼と美人のことが気にならなかった訳ではないけど、今はとにかく監査を優先しようと思った。

相変わらず先輩にはイヤミを言われ続け、何度も貶されつつも残務整理をこなしていった。
結果、監査にもなんとか間に合わせることができ、課内全体で打ち上げをしようということになった。


「今回は若山さんも頑張ったしね」


総務課長の言葉に照れる。
頑張ったのは私じゃなく、連日仕事を手伝ってくれた青空先輩の方だと思う。


「下っ端はいいよな。あの程度で褒めてもらえて」


拗ねる先輩に恐縮しつつ、近くの店へ全員で向かった。

歩いて10分の所にある串揚げ屋は、オフィスでの打ち上げによく使われるお店。
そこで突き出しとして出されるキューリの浅漬けは、私の一番のお気に入りだ。


「どうぞー、突き出しでーす」

「きゃー、待ってましたぁ!」


誰よりも先に手を伸ばして食べようとすると、目の前に座っていた鬼から呆れられた。


「また草食系か」

「ほっといて下さい。単に漬物が好きなだけです」


あの日以来、先輩と話す時はなるべく顔を見ないようにしている。
目が合うと気持ちが引き込まれそうな気がして、何とかそれだけは避けたいと思ってた。

オフィスでの汐見先輩と青空先輩は、特別変わった雰囲気も見せずに仕事をしていた。
たった3歳しか離れていないのに、二人とも大人だなぁ…と感心する。


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