これを『運命の恋』と呼ばないで!
『こんな獣臭が付いた車を運転するんですか!?』


半泣きになりながら嫌だと訴えたかったけれど、『時間だけでなくお金もかかります』と言われて断念した。


幸いにも車はきちんと走り、最寄りの修理工場までは運べることが出来たけれど、鹿にぶつかった精神的ショックは治らず、その後は代車を頼まずに電車で帰宅の途についた。


行きは車だったはずの私が徒歩で帰ってきたのを見て、母は『何があったの?』と聞き、『山道で鹿にぶつかった』と話したら。


『ナツが余所見でもしてたんでしょう』

……と、勝手に決めつけて笑った。


『余所見なんてしてないよ!本当に茂みの奥から鹿が急に出てきたの!』


こっちは怖くて仕方なかったのに、母はいつものことだと言って譲らない。
家族にまで信用がないんだ…と話すと、流石に智花も同情してくれた。


『運が悪かったわね。休日のドライブで鹿にぶつかるなんて』

『そうなのよ。その上、翌日からまた先輩にいびり続けられる毎日でしょう。もう何だか全て嫌になってしまって……』


感情が爆発して青空奏汰の悪口を言い続けたけれど、結局は全部、仕事のできない自分のせいだ。

愛車の傷は保険を使って直せるけど、自分の仕事ぶりはそれじゃ変わらない。

チクチクと刺すような先輩のイヤミに耐え続け、その後も寝不足の日々を過ごしてた5ヶ月後のある日。

とうとう居眠りをして林の中に車ごと突っ込んでしまいーーー


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