これを『運命の恋』と呼ばないで!
午前中の間、ずっと先輩の視線が怖くて下ばかりを向いて仕事をした。
何度か意識が薄れそうになりながらも、辛うじてお昼を迎えることができた。



「バカ山、ちょっと残れ」


とうとう呼び止められてしまった。


「はい…」


がっかり。
これからどこかでお昼寝でもしてやろうと考えていたのにオジャンだ。


ちらっと視線を投げながら、汐見先輩は何も言わずに他の同僚達と一緒に社食へ向かう。

先輩は行かなくていいのだろうか。
いつもなら一番に行っているのに。


逃げることもできずに椅子に座って待った。
先輩は皆が出て行ったのを確認してから私にこう聞き質した。


「お前、本当に体調は大丈夫なのか?さっき汐見も言ってたけど顔色が悪過ぎだぞ」


何時間前からの話を持ち出すんだ。
あの後もフラフラしつつ仕事を何とかこなしてたではないか。


「大丈夫です。…と言うか、そんなことの為に呼び止められたんですか?私」


貴重な休憩時間なのに困る。
少しだけでもいいから横になっておきたいのに。


「バカ。それだけで呼び止めるか」


先輩は自分のデスクを離れ私の側へやって来た。
椅子に座ったまま見上げる先輩の顔が真剣すぎて、妙に胸がザワつく。


すっ…と伸ばされた掌が額の上に乗った。


「うん、熱はないな」


勝手に判断している。


「だからどうもないと言ってるじゃないですか」


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