これを『運命の恋』と呼ばないで!
単なる寝不足からくる貧血。
そうでなければ、死期が迫りつつある証拠だろう。


「ならいい。飯食い行くぞ」

「えっ!?」

「飯食いに行く。お前もついて来い」

「ついて来いって…」


そう言われても、私は食欲なんてない。


「お前の好きな物奢ってやるよ。このところ元気もないし」


ほら行くぞ…と腕を持ち上げられた。
引かれるように立ち上がった側から腰に手が回される。


「歩けるか?」


驚くほど優しい聞き方をされた。

ビクッとなりつつも無言で彼に頷いた。


「じゃあ行こう」


するっと腰から腕が逃げていく。


「先輩!」

「ん?」


振り向いた人の顔を見て、『きゅん…』と胸が締め付けられる。


「何だ?どうした?」


その問いかけにぎゅっと唇を噛みしめる。
言い方が優し過ぎて、まるで先輩じゃないみたい。


「……いえ、何でもありません」



ああ、神様。
これは夢じゃないですよね。
今、目の前にいるのは、私の知ってる青空奏汰ですよね。


悪魔が化けているんじゃないですよね。
本物の人間ですよね。


「何でもないなら行くぞ」


向けられた背中が離れ始める。
スーツの上着を追いかける様にして足の運びを速めた。


「待って下さい!」


先輩が悪魔でもいい。
こうして追いかけてる今を大切にしておきたい。



……何となく気づいた。


この気持ちは恋とおんなじだ。


私は鬼だと思ってきた青空奏汰先輩に惹かれ始めてる。


救世主ではなく、汐見先輩のカレシなのに……。


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