これを『運命の恋』と呼ばないで!
やっぱり漬物はいい!
どんな時でも食べれる!


「そんなに旨いか?」

「モチロンですよ!先輩もどうぞ」


しば漬けを一本摘まみながら勧めた。


「どれ…」


摘まみ上げた漬物に先輩に唇が近づいた。


「あ……」


声を聞くでもなくパクつく。


「うん…まあまあだな」


ポリポリ噛んでる。

ビックリ。
まさか私の箸で摘まんだ物を食べるとは思わなかった。


(…これって、間接キスに入るのかな)


考えると急に胸がドキドキしてくる。


マズい。
今、先輩の顔が見れない。


ちらっと目線を上向きにすると、目の前にいる人はポリポリと音を立てて漬物を齧っていた。
箸ケースから取り出した自分用の箸で、全部の種類を味見している。


「旨いけど米が欲しくなるな」


特別意識もしてなさそうだ。


「や…やだなぁ、先輩。最初から自分の箸で食べて下さいよ」


ガッカリしながらそう言うと、先輩は「えっ…」と声を発して黙り込んだ。

不思議に思いつつ目を向けると、さっきまで意識してなかった人はプイッとそっぽを向いた。


「悪かったな。お前が差し出したのかと思ったんだよ!」


顔が赤くなってる。
そんな先輩の顔を見るのは初めてだから、トキメキよりも驚く方が先立った。


漬物も忘れてボー然と眺めてしまう。
頬を膨らませてる先輩は、次々と漬物を口の中に放り込んだ。


「やっぱり米が欲しい」


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