これを『運命の恋』と呼ばないで!
「ふぅん、そうか。それで漬物も買ってくれたんだ。ありがとうございます。それで、お連れ様は何処へ?」

「先に帰ってもらったんです」


距離が近い。
…と言うか。先輩が私の背中を抱いてない?


「会えて良かった」


思いがけず強く抱き留められた。

先輩の懐に納められるのは、何度目か数えきれないほどだ。
大学生だった頃とは違い、今は品のいい香りが漂ってる。


「ナッちゃん、今度一緒に食事しない?」


解放されると同時にお誘いを受けた。
断る理由がないから「いいですよ」と請け負った。

店先で連絡先を交換して別れた。
私も京塚先輩もケータイの番号を変えておらず、二人して顔を見合わせた。


どうして変えてなかったの?…という言葉を呑み込んだ。

他にも……


若社長というのはどういう意味?

故郷へ帰った筈なのに、どうしてまた戻ってきたの?

私と別れてから恋人は出来た?

今はフリー?それとも、もう結婚されてる?


あの日、私に言ってくれた言葉は覚えてますか?

あれを忘れきれずに私、大学生活を彼氏ナシで送り続けたんですよ。

ずっと、ずっと、先輩だけを思い続けてたんです………



……聞きたいことや言いたいことを話せずに戻った。
そのせいか、やけに気が散って仕方ない。




「バカ山!」


怒鳴りに近い声を出された。
ハッとして顔を上げると、恐い目をした鬼が向かい側から睨み付けてる。


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