これを『運命の恋』と呼ばないで!
「は、はい!青空先輩」


おっかない。
マジでキレてる?


「瞑想に耽ってる場合か?さっきから手が動いてないぞ!」


会計報告書のまとめをやらされてるところだった。


「すみません!ついボンヤリしてました!」


慌てて伝票の数字と照合を始める。

鬼先輩は何も言わずに私を見ていた。
食事まで奢ってやったのにこれか…と、呆れてるみたいだった。


(ごめんなさい先輩……頑張るから嫌わないで……)


肩を竦ませながら祈るような気持ちで目線を上げた。
鬼みたいに恐い声を出した男は、変わらずの「への字口」をしてたけれど……


目が合うと、慌てて視線を逸らした。
パソコンの画面に向かい、カチャカチャと操作し始める。

そんな態度を取られると錯覚を起こしてしまう。
先輩が私を見てたのを知られたくなくて、必死でごまかそうとしてるみたいだと。


きゅん…と胸が切なくなりそう。

だけど、ダメだ。

隣には先輩の彼女がいるーーー



ちらりと横目で確認する。


(良かった……仕事の書類とにらめっこだ……)


うっかりときめいたりもできない。

青空先輩には、恋をするのも勇気がいる。


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