これを『運命の恋』と呼ばないで!
「いいです。ここの料理はとても美味しいと聞いてるから楽しみです」


ウキウキしながら答える。完全に自分を作ってる。
今の私は全然自分らしくない。


「ナッちゃん、少し雰囲気変わったね」

「えっ!?そうですか!?」


そう言う先輩もスゴく変わったと思う。

優しい話し方も接し方も変わらないけれど、雰囲気が大人びてる。
何処かしら上品な感じも漂い、こういうお店にも似合ってる気がする。


「綺麗になった。付き合ってる彼氏でもいる?」

「えっ?!とんでもない!私はフリーですよ!」


好きになりたい人はいるけど、好きになんてなれない。
その人には彼女がいて、私は逆立ちしてもその人みたいにはなれないから。


「そうか…彼氏いないんだ…」

「そうですよ。あれから一人も作れなくて…」


マズッ。
なんということを口走ってしまうんだ。


「ははは…」


笑ってごまかしておこう。


「あれから?」


ヤバい。スルー不可。

ほらほら先輩が呆れそうになってる。チャンスもなかったからだと説明しておかないと……


「あのね、先輩…」

「そうかぁ、安心したぁ」

「はっ?(それどういう意味?)」

「ナッちゃん、あのさ…」


「失礼致します。付き出しと食前酒をお持ちしました」


仲居さんの声がして先輩の言葉は遮られてしまった。
乾杯をしてから食べ始めたら、さっき言おうとしてたことなど話題にも上らなくなった。


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