これを『運命の恋』と呼ばないで!
京塚先輩が就職したのは、実家の家業でもある漬物屋さんだと教えられた。
当時はまだ大学生だったから、漬物屋をしてる家業の手伝いをするとは口が裂けても言えず、私には内緒にしたんだそうだ。


「女子には引かれそうな仕事だろ?ナッちゃんはまだ3年になる前だったし、将来を決められてる僕とは違って未来は自由だったから」


気持ちに反して別れを告げた。
故郷に帰ってからも時々私のことを思い出してくれたらしい。


「あ…ありがとうございます……」


ストレートに伝えられると困る。そういうのには慣れてない。


「ナッちゃんは僕のこと時には思い出してくれた?」


無邪気な顔をして言いにくいことを聞く。


「あります。別れてから毎日、先輩のことばかり考えてました」


誰とも付き合えないくらいショックだった。
気分を変えたくて立ち寄った美容室で、親友となった智花と出会った。


「彼氏を作れずにいたって言うのは僕と別れたせい?」


自惚れかな…と先輩が笑う。


「うん……そのせいもあるけど、仕事を始めたら振り回されてしまって縁も無くて」


たったの一年務めただけで部署を異動させられたんだ…と教えた。


「そしたら、その変わった部署に鬼みたいに恐い先輩がいて、今もずっと指導され続けてるんです」


飲み込みが悪いから…と加えると、先輩は眉を潜めた。


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