これを『運命の恋』と呼ばないで!
「まさかとは思うけど、パワハラとかセクハラとかに合ってたりする?」

「そんなのはないですよ!でも、多少バカにはされてますけど」


それもこれも自分が無能なせい。
バカにされたくなければ、成長していけばいいだけのことだ。


「何だか許せないな、そういうの」


京塚先輩の声に力がこもった。


「僕の元カノをバカにするなんて許せない。ナッちゃんはいい子で、明るくてチャーミングな女性なのに」


「せ、先輩…」


照れる。
そんな風にあからさまに誉められたこと、この最近まるでなかった。

いつもいつも貶されたり、イヤミばかり言われていた。

青空先輩も少しは京塚先輩を見習えばいいのに。


ちらっとそんなことを思った。
京塚先輩と会っていながら、どうしても思考は青空先輩のことに繋がってしまう。


(他の人のことを考えるのはダメだよね)


思いながら反省すると、京塚先輩の咳払いが聞こえた。


「ごほっ。あのね、ナッちゃん」


テーブルの反対側から近付いてくる。
付き合ってもない人との距離に、少しだけ戸惑った。


「な…何でしょうか、先輩」


思わず箸を置いて手を引っ込めようとした。
その手をさっと握られて、心音が跳ね上がった。


「僕と……また付き合ってくれない?」


真剣な眼差しで囁かれた。
握られた手に抱かれた日のことが、さっと頭に蘇った。


「今度こそ、君のことを幸せにしたいんだ」


白目が薄っすら潤んでる。

< 89 / 218 >

この作品をシェア

pagetop