これを『運命の恋』と呼ばないで!
二人がいない所へ行きたい。
行って思いきり泣きたい。


(あ…そうか、いずれ行くことになるんだから慌てなくもいいんだ……)


死期が近づいてるんだった。
だから、望まなくても行けるはず。


(死ぬ前にあそこの漬物、全種類食べておきたいな……)


気分転換とばかりに京塚先輩のお店へ向かった。

都合良く慰めてもらえたら有り難い。
そうでなくても、あの空間に居さえすれば癒された気がする。




「いらっしゃいませ!」


元気のいい男女の声に混じり、先輩の声もした。


「ナッちゃん!」


語尾が上がって呼ばれる。


「こんにちは。お漬物買いに来ました」


先輩に会いに…とは言えない。
人よりもやっぱり漬物がメインだ。


「丁度いいところへ来たね」


おいでおいで…と手招きされる。


(何だろう?)


首を傾げながら近づいた。
先輩は暖簾をくぐり、厨房の方へと案内した。



「実は昨夜あれから新作漬物を決める会議があってね」


試作段階だという三種類の漬物が冷蔵庫から取り出された。


「夏メニューとしてピクルスは決まってるんだけど、ビール漬けがいいかワイン漬けがいいかで意見がまとまってなくて。漬物女子の意見が伺いたいんだけど、試食してみてくれる?」


「私が!?」

「うん、頼むよ」


ワイン漬けもビール漬けもアルコールは飛ばしてあるから…と言う。


「じゃあ、遠慮なく頂きます」


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