これを『運命の恋』と呼ばないで!
えへへ、ラッキー。
オフィスで青空先輩に怒られた甲斐があったというものだ。


嬉々として食べたのは、ウリの漬物とミニトマトの漬物。


「どう?」


京塚先輩始め、従業員さん達の真剣な眼差しが注がれる。


「どっちも美味しいです。でも、強いて言うならトマトの方には少しクセがあるかな。ウリはこのままでもいいけど、少しくらい辛みが効いてても美味しいかなと思います」


フードコメンテーターみたいなことを喋ってしまった。

うんうんと先輩は頷いてる。従業員はいそいそとメモを取った。


「すみません…偉そうに言ってしまって……」


反省しつつ謝った。


「なんで謝るの?貴重な意見をくれてありがとう」


先輩は柔かな笑みを見せてくれる。
優しい人柄に癒されて、確かに頼りたくもなる。

だけど。


自分の好きな人じゃないと気がついた。
だから、もうココへも頻繁には来れない。




「ナッちゃん」


漬物を買って外へ出ると、裏口から先輩が走り出してきた。


「どうしたんですか?先輩」


理斗先輩と呼ぶのも止めにしよう。
この人と付き合ってたのは5年も前のことだ。


名前が呼ばれなかったのを気にして、先輩は少し寂しそうな表情を見せた。
それでもメゲることなく、私にお礼を伝えた。


「今日は試食してくれてありがとう。良ければまた一緒に食事して欲しいんだけどどうかな?昨日の今日はダメにしても、金曜日くらいになら僕も時間が取れると思うし」


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