わがまま姫の名推理
プロローグ
「本、読むの好きなの?」
近場の図書館にある本を読み漁ってたら黒の眼鏡をかけ、茶色のブレザーの制服を着た男の人に声をかけられた。
「………」
「あ、ごめんっ。僕、最近ここに来てるんだけど、よく君を見かけてね。難しい本を読んでるみたいだから、最初はお使いかなにかかと思ったんだけど、君が読んでるみたいで……よかったら家にある本を読まないかなって思って………」
よく話す人だな。
それがこの人の第一印象。
「………」
あたしはどれだけ話しかけられても答えなかったんだけど。
「僕、住吉雪兎(すみよしゆきと)。気が向いたら声かけてよ」
その人は言うだけ言って、どこかに行ってしまった。
もう、会わないだろうな……
なんて思ってたのに。
次の日。
「こんにちは」
本棚の本に手をかけていると、昨日のように声をかけられた。
「考えてくれた?」
「………」
「おーい……?」
このまま気を使って黙ってくれないだろうか……
「聞いてる?」
彼はそう言ってあたしの顔と本の間に手を出してきた。
「!?」
「あ、やっとこっち見てくれた。ごめんね、邪魔しちゃって。でも、こうでもしないと話してくれないと思って……」
当たり前だ。
話す気などもともとないのだから。
「君、ここの本、全部読んだの?」
ここ……?
図書館の中の、ってことか……?
だとしたら、もう読み終えた。
あたしは首を縦に振る。
すると、男は嬉しそうに笑った。
「じゃあさ、家に来なよ。ここの本以上のものがあるから。僕の父親、警官でね。いろんな資料がたくさんあるんだ」
< 1 / 104 >