わがまま姫の名推理
「柏木冬馬が成瀬優弥と咲を殺した犯人だ」
あたしはエレベーターに乗り込みながら言った。
「すっ飛んだねぇ……どうしてそう思うわけ?」
ウサギもついて乗る。
ドアが閉まるのを見ながら、説明をする。
「柏木冬馬は成瀬優弥を殺した犯人が“乱魔の人間”と言っていた。だが、そのような情報は警察の資料には一切書かれていなかった。そんな情報をなぜ柏木冬馬が知っているのか。それは柏木冬馬が犯人だからとしか考えられないだろう。そして、そうなると柏木冬馬が警察を避けようとした理由も説明がつく」
「ちぃちゃん……」
ウサギが驚きの目をあたしに向ける。
「なんだ?」
「説明、うまくなったね」
そんなことか。
うまくなったもなにも、その場で考えたことを口にしただけなのだから、順序だっていて当然だろう。
「これからもそうしてくれるとありがたいんだけどねー」
どうやら1階に着いたらしく、あたしたちはエレベーターから降りる。
「ま、期待はしてないよ」
ウサギは苦笑いしながら正広のもとに向かう。
あたしはその背中について行く。
というか期待してないとは失礼だな。
頑張れば、それくらい……
できないな、おそらく。
考えた結論しか言わないのだから、簡単に説明上手にはなれない。
「2人ともご苦労だった」
正広のところに行くと、もう片付けが終わりかけていた。
「お父さん、ちぃが気付いたことがあるみたいなんだけど……」
「そうか。だが、後日にしよう。知由ももう眠いだろ」
あたしはなにも言わず、うなずいた。
「よし。今日は車で帰るか」
「ホント?今日は疲れてたから、歩きたくないなぁ、って思ってたんだ」
正広とウサギは並んで車に向かった。
乱魔との勝負が終わったあとだというのに、なんとも和やかな雰囲気が流れている。
「ちぃちゃん?早く来なよ」
少し前を歩いていたウサギが立ち止まり、あたしを呼ぶ。
正広も振り返っている。
「すぐ行く」
あたしは小走りで2人のところに行った。
そして車に乗った後の記憶はあまりなかった。