わがまま姫の名推理
あたしはウサギより少し前を歩き、取調室に向かった。
取調室に行くと、正広がドアにもたれかかって腕を組んでいた。
「雪兎、知由」
あたしたちに気付いた正広は、少し口角を上げた。
「お父さん、こちら、成瀬一弥さん。成瀬優弥さんと咲さんのご家族」
一弥はウサギに紹介され、軽く頭を下げた。
「そうか、君が成瀬一弥くんか。よかったな、犯人が捕まって」
正広、かなり疲れているな……
いつもの勘の鋭さがない。
そのため、一弥の正体に気付く気配は一切ない。
「今、柏木の取り調べをしてるところだ」
正広はそう言って取調室の隣の部屋の扉を開けた。
あたしたちはその部屋に入った。
「柏木……!」
昨日と同じく、マジックミラー越しに柏木冬馬の姿があった。
彼を見た途端、一弥は拳を強く握っていた。
『どうして成瀬優弥と咲を殺したんだ?』
取り調べを行っている刑事が尋ねた。
『誰か、知らない人に言われたんです……成瀬優弥を殺せ、と……あいつの右腕のお前なら簡単に殺せるはずだって……』
なんというか……
白々しいな。
ここまで罪悪感を感じているなら、自ら自首すればいいものを……
『断らなかったのか?』
『もちろん、断りました!でも、そしたら僕を殺すって言われて……怖くって……弱い人間で、ごめんなさい……』
『それはどんな人か覚えてるか?』
『覚えて、ないです……』
一弥を横目で見ると、絶望でもしたかのような顔をしていた。
これは、柏木冬馬の話を信じている顔だな。