悲しみの果てに

「鈴菜。今日、早番?」
と、結さん。
「はい。」
「それなら、来るの?」
「えっと·····多分·····」
「鈴菜。
何度も言うけど考えなさいよ。
傷つくのは鈴菜なんだから。」
「わかって···るん····ですけど·····」
「はぁっ·····まったく·····鈴菜は。
辛くなったりしたら言うんだよ。」

「結さん。
いつもありがとうございます。
帰りますね、お疲れ様でした。」
と、言って帰ろうとしたら

仲良しの、沙良(さら)こと
(新垣 沙良)が
「あれ、鈴菜?あがり?」
「あっ、沙良。
   うん。上がりだよ。」
「大丈夫?」
「うん?多分。
   また、明日ね。」
「何かあったら、連絡しなよ。」
と、沙良にも言われて帰宅した。

家に帰り、片付けして
夕飯の準備をしていると
電話がかかってきた
「俺だ。今から大丈夫か?」
と、言われて
「はい。」
と、私は答えた。

結さんや沙良が心配している
原因の人だ。

私が勤める有沢総合病院
院長の息子で
腕利きの外科医である。

有沢 苳吾(ありさわ とうご)さん
32歳である。

キリッとした、イケメンで
笑わないことでも有名だが
私の前では違う。

私は、苳吾さんと
出会って4年になる。

母が、病気で入院した時に
母の病室に行くと
苳吾さんがいて
その時初めて会った。

母に
「鈴菜、母さんの主治医の
有沢 苳吾先生よ。」
と、言われて
私は、
「母が、
お世話になっております。
娘の鈴菜です。」
と、挨拶をした。

その日から、
何度か病室で会っては、
話しをした。

看護師になりたくて
勉強している話や
学校の話しなど。

先生は、
いつも黙って話を聞いてくれた。

そんな時、母が亡くなり
気持ちが安定しない父は、
母との思い出の地
ドイツに行ってしまった。

私は、母を亡くし
悲しみにくれていた。

そんな私を励まし支えてくれたのが
苳吾さんだ。

私が、大人の苳吾さんに惹かれて
行くのに時間はかからなかった。


苳吾さんも私を愛してくれて
いつしか、私達は恋人同士になっていた。

私達が
知り合って、二年が過ぎた時に
私は、有沢総合病院に就職した。

これで、苳吾さんとも
ずっと、一緒に
入れると思っていた。

そんな矢先
苳吾さんが薬品会社の
ご令嬢と結婚した。

いわゆる政略結婚だ。

私はその時
苳吾さんとお別れした。

辛く、悲しかったが
結婚した人と
付き合うことは
できないと諦めた。
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