悲しみの果てに
••苳吾
俺の両親は、二人とも
医者をしていた。
小さい頃から
両親と一緒に
旅行に行ったり、遊びに行ったり
した事も、学校行事に親が来た事も
殆どない。
両親は、いつも患者さん優先だったから
だが、寂しいとか、辛いとか
思ったことはなかった。
むしろ、そんな両親を尊敬していたし、
自分も医者になると
ずっと、思っていた。
容姿は、両親から引継
悪い方ではないから
彼女もいたが、
勉強が忙しくなると
放置してしまうので
長く続くことはなかった。
医師の資格を持つと
しばらく、海外に研修へと行き学んだ。
数年後に帰国した
当時、俺は28歳
すると、親父に
「診てほしい患者がいる。」
と、言われた。
親父の病院にいる
優秀な看護師らしい····その人は
すい臓癌におかされているみたいだ
だが、俺が診たときは
もう手遅れで
手術をしても助けることは
できなかった。
医療者の不養生だ。
その人には、娘さんがいて
彼女は、尊敬する母と同じく
看護師を目指していた。
純粋で、綺麗で、真面目で
ひたむきな子だった。
俺は、日頃から
人と関わるのが苦手で
生きてきたが
鈴菜は別だった。
鈴菜は、いろんな話をしてくれた。
聞いているのが楽しかった。
お母さんが、亡くなり
お父さんは、妻をなくした事に
耐えられずに、ドイツに行って
しまった後も
鈴菜は、お父さんの恨み言
一つも言わなかったが
鈴菜は、
うちひしがれながら
辛さに耐え
悲しみを胸に秘めていた。
俺は、見るに耐えれなかった。
だから、俺は、鈴菜に寄り添い
仕事が終わると
毎日、鈴菜の家に行き
食事を取らせ勉強をさせた。
行かないと食べずにいるから。
そんな、俺達が恋人同志になるのに
時間はかからなかった。
俺は、鈴菜を愛していたし
鈴菜も、俺を愛してくれていた。
鈴菜と出会って二年が過ぎたとき
親父に呼ばれた。
そして、親父から
四井製薬会社の
娘さんの、綾香さん27歳と
結婚するように言われた。
もう、四井さん側は、
動いていて
新居に入っているらしい。
綾香さんが、
うちの病院に入院していた
友達を見舞ったときに
俺を見て見初めたらしい。
もう、婚姻届も
親父達の手で出されていた。