恋凪らせん
*和花 ~あの頃の女~*
「俺さー、あの頃おまえのこと好きだったんだよなー」
なんかの台本かというくらい同じ台詞を、田中・佐藤に続いて鈴木が言った。
空になったビールジョッキをごとんとテーブルに置き、大皿の上に散乱するポテトフライを摘みながら鈴木はとろんとした目で私を見る。相当酔ってるみたいだ。
「でもさー、高嶺の花だったからなあ、和花は」
打ち合わせでもしたんですかって思うくらい同じ台詞が、呂律の回っていない鈴木の口から出る。居酒屋のざわめきをすり抜けて耳に届いたその言葉に、私は曖昧に微笑んだ。
久しぶりに開催された高校の同窓会は参加率がよかった。居酒屋のフロア半分ほどが貸切状態で盛り上がっている。そんな中私は、序盤に田中から、中盤に佐藤から、そして終盤近くになって鈴木からなんとも微妙なカミングアウトをされたのだった。
新しい彼女ができたばかりだという田中には「あの頃ホント好きだった。見てるしかできなかったけど……」と照れ笑いされた。ついでに彼女の写真も見せられた。
生徒会長も務め人気があった佐藤には「あの頃ちゃんと好きだって言えばよかったな……」としんみりされた。なんでも先月婚約したところだそうだ。
そして目の前の鈴木。来月挙式予定だという彼は、目尻を赤く染めて晴れやかに笑った。
「あー。勇気出して言えてよかった。すっきりしたよ」
なにが勇気だ今出せる勇気ならあの頃絞り出しとけこっちの気もちはお構いなしにすっきりしてんじゃないこの自己完結男!
心の中で盛大に悪態をつくも、表面にはおくびにも出さない。
「そっか。ありがとねー」と適当に笑っておく。こんな話、突っ込んだって掘り下げたって仕方がない。酒の席なら尚更だ。
あの頃おまえが好きだった――――
こんな不毛な告白がほかにあるだろうか。実は今も……と続くならまだしも、三人ともしっかり自分の幸せはその手に掴んでいるのだ。過去の恋に「完」の字をつけて片づけたいだけなら、悪いけどこちらとしては少しだけ迷惑というものである。