恋凪らせん



あたしはタクシーの窓を流れていく夜の街を虚ろに眺めた。灯りが消えたビルが墓石のように遠く近くそびえ立っている。昼間の繁華さと夜の沈黙。どちらが表でどちらが裏だろう。どっちの顔が嘘なんだろう。

空っぽだ。中身なんかない。見栄の皮だけをまとった空っぽの虚ろな女。それが今のあたしだ。どれだけ嘘を詰め込んでも、片っ端から流れていく。満たされないから次々に詰め込む。嘘ばかり詰め込んでどんどん流れていって、結局空っぽのままだ。自分で自分が嫌になる。

たとえば、惨めな自分を自虐で笑い飛ばすような強さがあったらよかったのだろうか。冴えない容姿を嫌って派手に飾り立てているから強い女、キツイ女と思われているかもしれない。でも実際そんなに強くない。芯のところはスカスカだ。
嘘をつき続ける苦しさを思えば、真実を告げる痛みなんか一瞬で終わるようなものだけれど、いつまで続くかわからないその痛みの余韻を、あたしは受けとめることが怖くて仕方ない。

『いいなあ、あんなステキな彼がいて。羨ましい!』
『出世頭なんでしょ? 将来有望ね~。プロポーズはまだなの?』
『結婚式も豪華なんだろうなあ。絶対呼んでね!』

あたしの言葉を真に受けて展開される彼女たちの妄想は、あたしがいずれ手に入れるはずだった未来で、それを聞いているだけで満足だった。
それどころか「こっちのほうが本当ではないか。別れたっていうほうが嘘なんじゃないか」なんて思ってしまうほどだ。

着信があれば洋太からではないかと思い、同じ型の車の運転席に彼の姿を探し、駅の人込みの向こうに手を振る笑顔の幻を見る。
嘘と現実の境界線に、かろうじてあたしをこちらに繋ぎ止めている何かがある。それに必死に手を伸ばすけれど、心の歯車はずれ、軋んで狂っていくような心もちにさせられる。

自分が怖い。嘘はダメだ。
そう思うのに、自分を守るために無様にしがみついた嘘は転がる一方だった。



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