恋凪らせん
タクシーが停車する。ふと顔を上げると赤信号が目に入った。
止まれの赤、ストップ、停止、そこから先はダメ――――
艶やかで真っ赤なエナメルのバッグを抱え込む。ノーブランドだったけど一目惚れして洋太に買ってもらったバッグだ。洋太に固執するのも、嘘をつくのも「止まれ」の合図でやめられたら簡単なのに。
そういえば、あたしは昔からこんなふうだったな。止めどきがわからない。自分に正当性がないものにほど執着してしまう。
小学校高学年の頃、女子の間でシール集めが流行った。競って可愛いシールを集めては見せっこや交換をした。キラキラとラメが入っていたり、虹色に光ったりするシールは値段的にも少し高くて、もっている子はあまりいなかった。
きっかけはささいな言い合いだったと思う。
クラスの女子が自慢げに見せていたラメ入りのシールを鼻で笑って、「あたしのもってるほうが綺麗だもん!」と言ってしまったのだ。もちろんそんなシールもってない。
「見せて」「イヤだ」で喧嘩になって、しまいには「本当はもってないんでしょ! 嘘つき!」と見抜かれてしまった。それでも「もってるもん!」と嘘を通そうとしたが、羞恥で顔は熱くなり悔しくて拳を握ったまま黙り込んでしまった。
唇を噛んで体を震わせていると、一部始終を見ていた女子のひとりがあたしたちの間に入ってきた。
『京子ちゃん、嘘なの?』
訊かれてあたしは渋々頷いた。ここが認める好機だとわかったからだ。それを聞いて勝ち誇った顔をしている喧嘩相手に向かってその子は淡々と言葉を継ぐ。
『嘘ついた京子ちゃんは悪いけど、そこまで追い詰めることもないよね。だいたい学校にシールもってくるの禁止だし』
あのときは本当に素直に「ここまでだ」と思った。だから嘘を認めることができた。喧嘩相手ともすぐ仲直りできたし、収めてくれた子とも仲良くなった。
嘘は苦しい。背筋に水を浴びたように怖い思いをして、もう嘘はつかないと思ったはずなのに、あたしは同じことを何度も繰り返している。