恋凪らせん
自分の見た目が「清楚」というカテゴリに入るのは認める。
同居していた祖母の「女の子らしく」という方針のもとで育てられ、黒髪ストレート、色白で黒目がちの容姿に、小さい頃から祖母好みのワンピースなど着せられていたのだから板にもつくというものだ。
けれど、姉ひとり、兄ひとり、弟ひとりという四人兄弟の中で揉まれれば、そうそう性格は大人しくなどならない。
少々人見知りで気を許すまでは時間がかかるほうだけど、もじもじと引っ込んでいるような女じゃない。私のことを「高嶺の花」なんて言ってる人は、さほど仲よくない男子が多い。女子の大半は私の本性を知っている。
高嶺に咲いたつもりもないし、自分が花だという自覚もない。勝手にイメージをつくられて、観賞用の枠の中に収められた私の恋愛経験はほとんどゼロだ。
常に恋人がいると思われるらしく、真正面から口説かれたことはない。探り探りという態で近寄ってくる男はいたけれど、ちょっと言葉を濁すだけであっという間に去っていく。もう少し粘ってよと思うのに、呆気ないほどあっさりと引かれてしまう。
おかげで二十四歳のこの歳になるまでキスはおろかデートだって満足にしたことがない。体は製造されたときのまま、まっさらの新品。つまり処女。入口に蜘蛛の巣どころか、住人を迎え入れる前に廃墟寸前である。
理想が高いわけでもないし、壁をつくっているわけでもない。誰でも歓迎とは言えないけど、間口は広いほうだと思ってる。
自分から好きになった人に告白したこともあったのに「やめろよ。冗談なんだろ?」と逃げられた。釣り合わないだろ? と後ずさりされてしまうのだ。
気づかれないようにそっと溜息をつくと、「ちょっとトイレ」と鈴木が立ち上がった。よろよろと覚束ない足取りで座敷を出ていく。
それと入れ違いに京子が入ってきて私の肩をぽんと叩いた。彼女もけっこう酔っているようで、少しふらついている。
「気にしないのよ~」
京子の一言に近くにいたほかの女子が何人か頷く。見られていたし、察せられていたかと思うと気恥ずかしい。昔から不作恋愛な私を「不憫な子」と励ましてくれていた彼女たちの視線は、憐れむようなエールをくれるような微妙な温度だ。