恋凪らせん
聞きたいに決まっている。でも素直に「教えて」と乞うのも癪だ。
それよりなにより、わたしはこの男になにか弱みを見せたのだろうか。黒い本心を悟られるようななにかを、表面に出してしまったのだろうか。
だとしたら由々しき失態だ。いろいろやり過ごせなくなってくる。適当にうなずいていれば楽だったのに、面倒なことになるのは困る。
わたしはなるべく表情を動かさないように努め、いっそ冷淡になるくらい感情を削ぎ落として彼に向き合った。
いつもは行き過ぎない程度には微笑んでいるように設定している顔面モードはこの際オフだ。中杉くんは動じず、やっぱりどこかおもしろがるふうで私を見ている。
「……どうすればいいの?」
「今夜、夕飯つき合って」
想定外のような、ぎりぎり内のような提案にわたしは唇を噛んだ。面倒事を嫌って、勤務時間外で会社の人と会うことは極力避けている。社内の飲み会は「仕事」と割り切っているし。
どうしようかと逡巡したが、正直選択肢は少ない。
結局わたしは渋々ではあったけれど、「わかった」とうなずいた。彼はちょっと目を眇めてわたしを見つめたあと、腕を組んで口の端で笑う。
「面倒くさい、鬱陶しい、さっさとここで言えばいいのにって思ってるだろ?」
「そこまでわかってるなら言ってよ、ここで」
「んー。もう少し崩してみたいんだよな。いつも笑って“いいですよ~”ってうなずいてる湯川をさ」
「……なんで?」
「あの夜、可愛かったから」
中杉くんは楽しそうに笑んで「あとで電話かLINE入れるから」と手を上げた。踵を返す彼を慌てて呼び止める。
「番号教えてないけど? LINEも!」
「あの夜教えてくれたろ? じゃああとでな」
あの夜あの夜あの夜……!
わたしは彼にいったいなにをしたのだろう。