恋凪らせん



うるさすぎず静かすぎず、ほどよいざわめき。気取らない内装のカジュアルレストラン。料理も上々でなんの不満もない店だ。
あえて文句をつけるなら、テーブル越しに含み笑う同伴者だろう。

「嘘」
「ホント」
「絶対、嘘!」
「ホントだってば」

答えが出る気配などない押し問答の末、わたしは大仰に溜息をついて顔を覆った。わたしにとってはこれ以上ないくらいの失態だった。

先月の飲み会の帰り、酔ったわたしは最寄駅が同じという理由で中杉くんと帰路を共にし、さんざん管を巻いたらしい。

『冗談じゃないと思わない? 中本くん』
『中杉だよ』
『自分の仕事、人に押しつけといて平然としてるなんて何様よ。ねえ中山くん』
『中杉だって』
『飲み会なんて自慢か愚痴。話題も貧相でお金払って参加する価値ないよ、そうでしょ中目黒くん』
『な・か・す・ぎ』

そんなやり取りをくり返し、どうかすると駅のベンチで寝てしまいそうになるわたしを叱咤し、なんとかタクシーに押し込んでくれたらしい。そのときに、「家に着いたら連絡しろ。安否確認だ」と電話とLINEを交換したそうだ。

「電話もなあ、冷静になろうとするあまりカタコトになってて……」

思い出したのか、ビールのグラスをもったまま吹き出す中杉くんを軽く睨む。

「それは大変見苦しいところをお目にかけましてすみませんでした」
「見苦しいどころか可愛かったけどな」

調子が狂う。中杉くんってこういう感じの人だったろうか。いろいろやり過ごすばっかりで、あまりほかの人のことを見ていなかったからよくわからない。
困惑したまま目の前のピンクのカクテルに視線を逃がしていると、「だからさ」と中杉くんが続けた。



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