恋凪らせん
中杉くんと食事に行ってから二日が経った。
同じフロアにいるのにあれから彼とは話をしていない。一方的にわたしが避けている形だ。ときおり不服そうな視線を感じるけれど気づかないふりをしている。
ずっと躱し続けることなんて不可能だけど、もう少し自分の心が見えるまで距離をおきたい。
踏み込まないでと思うくせに、つい一緒に食事をした時間を反芻してしまう。
関わるのは面倒だと思っているくせに、小気味よく交わされたあの日の会話が恋しくなってしまう。
やり過ごしたいのにやり過ごせない。目で追ってしまうのをやめられない。
ホワイトボードに書かれた「外回り」という中杉くんの右上がりの字を見つめながら、来週の飲み会に彼は来るのだろうかとそればかりがやけに気になった。
午後の休憩時間になって中杉くんが戻ってきた。誰かを探している様子に一瞬「わたし?」と身を縮めたが、彼が話しかけたのは結子だった。
コピー機の前にいた結子は花の咲くような笑顔で中杉くんに応じている。わたしのようにやり過ごすための温度のない笑みではなく、自然であたたかみのある優しい笑顔だ。
わたしから中杉くんの表情は見えないけれど、結子の様子から親しく楽しげに話しているのが察せられる。目が離せなかった。喉の奥がきゅっと締まって、胸のあたりがちくちくと痛むような感覚に苛まれる。
結子がスマホを取り出して中杉くんに画面を見せるような仕草をした。彼はそれを覗き込んで何度かうなずいている。ふたりの距離が近くなったのを見て心臓が嫌な跳ねかたをした。
息がうまく吸えないなあと他人事のように思った途端、喉を引っ掻かれたようにむせて咳込んでしまった。
口を手で覆うも、中杉くんは気づいたらしくこちらを振り返る。目と目が合った。わたしは口元を強く押さえ、彼から視線を引き剥がしてふたりに背を向けた。