恋凪らせん
ときにさりげなく、ときに真正面から珠莉を諌めてきたけれど、これだけは耳を貸してくれない。ひらりと笑顔で躱されるのが常だ。
『そんなに自分を安売りしないでよ』
『本気で好きになれる人、探そうよ』
訴える私の言葉に珠莉は「そのうちね」と笑む。その表情はなにかを諦めたようにも見えて、自分の言葉の虚ろさを感じてしまう。自分は上っ面だけで心配しているのかと不安になる。
昔は自棄のような関係をもつ子じゃなかった。なにが彼女を変えたのか。近くにいたはずなのに、気づくことができなかった。
「結子」の力を発揮して彼女の縁結びをしたいのにチャンスの到来はなく、もどかしい想いに溜息が出てしまうのである。
そんな私の心中など知る由もなく、珠莉はビールの大ジョッキを美味しそうに呷ると、また「けっけっけっ」と笑った。
「結子はさ、恋愛とセックスがこうあってほしいんでしょ?」
白い皿に残るポテトフライを「=」の形に並べて珠莉が言う。
それはそうだ。それが理想というものだと私は思う。ところが珠莉は笑いながら「あたしはこうなんだな~」ともう一本を摘んで「=」の上に斜めに載せた。
「≠」が示すのはノットイコール。イコールではない。
「結子は大丈夫。堅実な考えの子には堅実な男がやって来るから。でもあたしは違うからさ~」
皿の上に次々に「≠」をつくる珠莉の手を「食べ物で遊ばない!」とぺちんと叩き、私は上に載った斜めの一本を片っ端から食べた。
私は珠莉が好きだ。この綺麗で奔放で、でもどこか淋しそうに見える友人が幸せになることを望んでいる。
口にポテトフライを一杯に詰め込んで涙目になった私を呆れたように眺め、珠莉は「ほらほら」と水をくれた。
縁結びの「結子」
いつか珠莉のために本領発揮したい。そんなことを考えていると知れたら「バカじゃないの?」と彼女は笑うだろうか。