恋凪らせん
頭の内側からハンマーを打ち下ろされているような鈍い痛みが間断なく続く。
昨夜は飲み過ぎた。二日酔いをお伴に出社したはいいものの、頭痛はひどいし喉は乾くしで退勤時間が待ち遠しい。
ポテトを詰め込んだあとに珠莉にもらったコップ。水だと思ったら彼女がオーダーした焼酎の水割りだった。そこが致命的だったと思う。
午後の休憩時間の少し前、私はフライングでフロアを出て階下に足を向けた。一階ロビーの奥に自動販売機が並んだ一角がある。闇雲に炭酸飲料が飲みたくてたまらなくなったからだ。
早く買いたかったけれど、急ぎ足は二日酔いの頭に響く。私はゆっくり廊下を曲がって自販機コーナーを目指した。
がこんがこんと重い音が聞こえてくる。がしゃがしゃと金属の触れ合う音も。
角から顔を覗かせると、業者の人が商品の補充をしているところだった。この近辺の担当なのだろう。ひょろりと背の高いその男性を、私は会社以外でも何度か見かけていた。
仕事の邪魔をしては悪いなという気もちと、早く買って飲みたいという欲がせめぎ合う。休憩時間をフライングして来ているから少々後ろめたさもある。
どうしようかなあ。がこんがこん。困ったなあ。がしゃがしゃ。
迷いの間に合の手のような音が入ってくるのが妙なツボを刺激した。思わず吹き出すと、男性がぎょっとしたように振り返った。
「うわ、びっくりした! あっ、すみません、もう休憩ですか?」
「いえごめんなさい。私が早く来ちゃったんです。喉が渇いて……えーと」
さすがに二日酔いが辛いんですとは言えない。適当に濁しながら近づくと、男性は屈めていた腰を伸ばして「すみません」とまた謝った。
私にとっては見上げるくらいの長身を折って「もう少しで終わりますから」と慌てる彼の姿が、緩んだツボをまた刺激した。財布で口元を覆うようにして笑いを堪えていると、照れくさそうに鼻の頭を掻いた彼が「あっ!」と短く声を上げた。
私の財布についた小さなチャームを凝視している。