恋凪らせん
「それ、Shield Goですよね? もしかして結成当時の幻のストラップ!?」
「S・G知ってるんですか?」
彼は何度もうなずく。
『Shield Go』はインディーズからじわじわと売れて、最近メジャー・デビューした五人組のバンドだ。結成当初から大好きで、足繁くライブに通っていた私は相当コアなファンだと自負している。グッズの保持率も自慢できる。
「それ持ってるなんて相当なファンですね?」
「そちらこそ、見ただけで結成当時のグッズとわかるなんて相当ですよ」
「僕、来週のライブ行くんですよ」
「えっ、そうなんですか? 私も行きますよ」
まさに意気投合。好きなものが被ると、人は途端に「いい人だ」と認識が深くなる。もっと話したかったけれどお互い仕事中。
あそこの会場狭いから会えるかもしれませんね。
そうですね、会えたらいいですね。
そんな言葉を交わしながら彼は補充を終え自販機の扉を閉めた。では、とお金を入れた私は「あれ?」と動きを止める。150円入れたはずなのに100円としか表示されない。硬貨が戻ってくる気配もない。
思わず後ろにいた彼を振り返ると、「あれ?」と首を傾げながら扉を開けて中を覗き込んだ。
「あ、引っかかってました」と彼の手のひらに載っていたのは5円玉だった。50円玉と間違えて入れてしまったらしい。
「すみません!」
恥ずかしさに頬を熱くしていると、小さく笑った彼がそっと私の手に5円玉を置いてくれた。
「ご縁がありますように……なんて」
また照れくさそうに鼻の頭を掻いた彼の人懐こい笑顔に嬉しくなる。
来週、本当に会えるかもしれない。そう思うとなんだかとても楽しい気もちになる。私は彼に大きくうなずくと、5円玉を手の中にぎゅうっと握り込んだ。
―― 了 ――