恋凪らせん
結子の好きなバンドの曲を耳にしたせいか、あの子の顔がちらつく。
『自分を大事にしなよ。そういうのよくないよ』
心配してくれてるのはわかってる。結子に叱られると「まだ大事に思ってもらえてる」なんて考えて気分は悪くない。そのうち愛想を尽かされるんじゃないかと怖くなるときもあるけど、そのときはそのときだなんて投げやりな自分もいる。
あたしに近づいてくる男たちは、ほぼ体目当てだ。
ゲーム感覚で口説き口説かれて、その場限りの快楽に身を委ねる。好きな男がいない今のあたしにとって、セックスはスポーツと同義だ。誰とでも同じ。一汗かいて「ハイお疲れ!」みたいな。
人肌恋しいのも治まるし、カロリーも消費できてお肌の調子もいい。虚しさが残ることだけに目を瞑ればどうってことはない。
貞操だとか、倫理だとか、守らなくちゃいけない規範は知っている。でも知っているからと言って、実践するかどうかは別問題だ。結子に言わせると「そこからもうおかしい」らしいけど。
結子のことを考えていたら少し気が軽くなった。ホテルを出る頃には足取りが弾んでいた。ホテルの隣はコンビニで、コンビニの隣があたしのマンションだ。
男と会うのは自宅近くのこのホテルと決めている。面倒だとか、なんかマズイかもと思ったときにすぐ逃げ帰れる距離。まさかこんな近くのマンションに住んでる女とは男のほうも思わないから、言ってみれば「灯台下暗し」だ。
周りから見れば、身なりは派手だし男をとっかえひっかえで遊ぶ性悪女だろうけど、あたしだって最初からこんな女だったわけじゃない。
自分の顔立ちが人目を引くほうなのは自覚があった。でもそれだけで「遊んでる」と陰口を叩かれる羽目になるなんて思ってもみなかった。
なるべく目立たないようにと地味めな恰好を心がけても、ほじくり出されるように前に押しやられる。どんなに否定してもそれは逆効果しか得られなかった。
ありもしない噂から、ひどいイメージを塗りつけられるに至って、あたしは心から疲弊してしまった。
俯くばかりの大学卒業間近、あたしは「運命だ!」と思える人と出会う。