恋凪らせん
少し冷え込んだ夜だった。それをいいことに、あたしは「寒いね」と隣を歩く男の腕に自分の手を絡めた。焦ったように身を固くするのが伝わってきて少し楽しい。
腕を引き、胸元に触れるように誘導するとさらに慌てたように男が体を捩らせた。
「珠莉、おまえ酔ってんの?」
「ん~? まあ少しはね~。堀田くんは酔ってないわけ?」
「そりゃあ少しは……」
戸惑いを隠せずに眉根を寄せる堀田くんは高校のときのクラスメイトだ。同窓会を企画しようということになり、ほかの同級生たち数人と会った帰りだ。日程や場所、案内状の発送やプランなどひと通り決めた。居酒屋に流れて適当に飲み交わし、ついでにあたしは堀田くんをお持ち帰りしてきたというわけだ。
自宅マンションとホテルの間のコンビニに入る。買うのは誰と一緒でも同じものだ。
酒とゴム。
素面やほろ酔い程度じゃやってられないし、ホテルに備え付けのゴムなんて危なくて使えない。
彼の腕を離さないように掴みながら、カゴにビール半ダースと小さなゴムの箱を入れる。それを見た堀田くんがぎょっとしたようにあたしを見た。
「珠莉? おまえなに考えてんだ? オレにはそんなつもりないぞ?」
「じゃあどんなつもりでついてきたわけ?」
「珠莉の話を聞くためだろうが」
なにを今になって焦っているのか。男と女の繋がり方なんてそんなに多くないでしょう? 性的かそうじゃないか、ざっくり二種類だって通じる。
コンビニの隅っこでこそこそと声を潜めて話すのに疲れて、あたしは堀田くんの唇に人さし指をあてた。
「黙って。女に恥をかかせないで」
ちょっと甘ったるく囁けば終わりだ。思惑通り堀田くんは黙る。
「いい子ね」と微笑んで彼の腕を引き、あたしはレジに向かった。