恋凪らせん
*亜由美 ~線を引く女~*



また来た。あの女だ。

しょっちゅう来るあの派手な女。ただ単に派手好みというよりは、わざとそう見せているようにも思える。男の目を惹くためか、なにかを隠し欺くためか。
知ったことではないけれど、いい加減この店を利用するのを控えたほうがいいと思う。

連れの男はほぼ毎回違うけど、買っていくものは判で押したようにいつも同じ。お酒と避妊具。

女の財布を覚えたから髪型やメイクを変えても特定できる。特定できたところでなんの得もないけれど。
店を出て向かうのは隣のホテル。極めて使用目的が限られる類のホテルで、そういうところの備品を使わない慎重さはあるのに、同じコンビニでばかりそんな買いものをするからバイトの中ではすっかり有名人だ。「一度お願いしたい」なんて騒ぐバカもいる。ほかでも買ってくださいというよりも、もううちに来ないでくださいという気もちのほうが強かったりする。

「小野さん、しわ。眉間にしわ寄ってますよ」

女たちを見送ったあとレジ周りを片づけていると田宮くんが声をかけてきた。ふたつ年下の彼がわたしは苦手だ。

「小野さんはああいう女性キライですか?」
「べつに好きも嫌いもないでしょ。ただのお客さんだもの」
「うわー、かったいなー。小野さん、恋愛経験なさそー」

さすがにイラッときた。店内に客がいないことを確認しての軽口であっても、聞き流せることとそうでないことがある。
わたしが反論しようと口を開ける前に、田宮くんはへらっと笑うと「陳列直してきまーす」と無人の店内に軽やかに出て行った。



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