恋凪らせん
コンビニのバイトは週四回。大学とサークルにぎりぎり影響が出ない回数で入っている。そんなに多くのバイトがいるわけではないから同じ人とシフトが重なるのはよくあること。同大学の人となら講義の関係もあるから尚更だ。
けれど、高校生の田宮くんとこんなに被るのは珍しいと思う。
「小野さんコンバンハ。今日もよろしく~」
「……こんばんは。また田宮くんと一緒? 最近多くない?」
「えー。こんなもんじゃないすか? あ、俺と一緒がイヤ?」
「べつにそんなことないけど」
もちろんふたりきりなわけじゃない。今日は同じ大学の先輩の美里さんも入っている。きびきび動く頼れるお姉さんという印象の明るい人だ。
「亜由美ちゃん、田宮くん。お客さんいないし、品出しと陳列みんなでやっちゃおう」
「はーい」
日配品をチェックして棚に並べていく。ついでにちょこちょこ掃除だ。
お客さんが数人入ってきて美里さんがレジに入る。わたしは日配品を田宮くんに任せ、衛生品や化粧品の棚に移った。かるく拭き掃除をしながら商品を並べ直す。
ふと避妊具のカラフルなパッケージが目に入った。どうしてこんなに目立つデザインなんだろう。そうっと見つからないようにこっそり買う類のものじゃないだろうか。
唐突にあの女性を思い出す。カゴの中のビールの横で存在感を放つこの箱の色。あの人は「買いにくいな」と思ったことはないのだろうか。
考えこみながらつい箱を見つめていると「それ欲しいの?」という笑い含みの声と共に肩を叩かれた。驚いて振り向くとスーツ姿の若い男がにやにやしながら立っている。顔が赤い。息が酒臭い。まだ宵の口という時間帯なのに結構な酔っ払いだ。欲しいの? と訊かれ自分が手に持っていたものを改めて認識したわたしは内心悲鳴を上げた。曖昧に笑って首を横に振りながら箱を棚に戻す。
「掃除中なので……」
「じっと見てたじゃん。ねえソレ、おれと使おうよ。ねえ……」
男の腕が自分に向かって伸ばされるのがスローモーションのように見えた。そして、その男の腕を寸前で掴んだ手が現れたのもスローモーションのようだった。