恋凪らせん
「ただいまー」
「おう、おかえり」
玄関まで出てきてくれた修司は片手にビールをもっている。奥のテレビからは彼が好きなバラエティ番組のテーマ曲が流れていた。そちらをちらちら気にしながらも、修司は冷蔵庫を開けて笑顔をあたしに向けた。
「バイトお疲れ。美里も飲むか?」
冷えた缶ビールをさし出され、ありがとうと受けとる。少しはにかみながら「おう」と答えた修司は……うん、フツー。大好きな笑顔だけど、客観的にはフツー。あたしの容姿も十人並みで人のことをとやかく言えやしないけど。
でも、なんかこう……三年も一緒にいるとトキメクものが減っていくというか、すっかり落ちついちゃってドキドキはしないのだ。これがイケメンだったら何年経ってもドキドキするんだろうか。
そんなことを思ってはっとする。すごくひどいことを考えた。自己嫌悪になる。
テレビの前に陣取る修司のとなりに腰を下ろす。ビールのプルトップを開けると、しゅっと小気味よい音が弾けた。
今日あったこととか、お互いのバイトの話とか、バラエティのあり得ない企画に突っこみを入れたりしながらふたりでビールを飲む。
穏やかでこれといった変化のないフツーの日常。目新しいことなど大して起こらない。だからあたしは本を読むのだろうか、空想するのだろうか、小説を書くのだろうか。
新しいなにかに触れたくて、違う世界を垣間見たくて、もしかしたら自分は誰かの「特別」になれるなにかを生み出せるんじゃないかと憧れて。
でも現実はフツーなのだ。
芸人の体を張ったリアクションに修司が大笑いしている。
このあとたぶん、フツーにご飯食べて、フツーにお風呂入って、フツーにセックスして、フツーに寝るんだ。