恋凪らせん
その後の展開は笑ってしまうくらいぴたりと想像通りだった。ただひとつの意外性も忍び込んではこなかった。
火照った体からようやく熱が逃げていく。かるく鼾をかきながら眠る修司の横からもぞもぞと這いだして、あたしは素肌にシャツを羽織った。窓から月が見える。青白い円型は夜空に穿たれた空虚な穴のようだ。
しばらくぼんやりと眺める。眠気はやってこない。修司は熟睡中。
あたしはカッと目を見開くと、修司から距離を取って部屋の隅でノートパソコンを起動させた。明るい画面の中にあたしの特別な世界が立ち上がる。
新作用のネタをざっくりとワードに箇条書きにする。プロットに起こすのは明日でもいい。続いて連載中の作品の更新に移る。書き溜めておいたぶんを推敲しつつ上げていく。もう少し展開を進めたくて、その勢いで下書きに入った。
キリのいいところまで書き終えてほっと一息。今日書いたぶんは、明日以降また推敲しながら更新だ。
床に置いたパソコンに被さるような姿勢で打ち込んでいたので腰が痛い。うーんと伸びをして、なにげなく作品のコメント欄に目を留める。
「あ」
声が出た。新着コメントが一件来ている。慌ててマウスを操作してコメントを表示させた。
<楽しく読ませていただいています。更新がんばってください/ニック>
ニックさん。折に触れてコメントを残してくれる人だ。常連さんと思っていいのかなというくらいにはあたしの作品を読んでくれている、と思う。
書いた人にしてみればなんでもない言葉かもしれない。でもあたしにとっては、コメントが後光を放っているようにぴかぴか輝いて見える。書き手ならみんな思うことじゃないかな。本当に宝物なんだ。
その一言でやる気が出て、「次もがんばろう」って奮起する。単純この上ないけれど、自分の妄想を文章にしてこれでもかと無防備に広げて読み手を待っている身としては、これ以上ないくらいの励ましになるのだ。