恋凪らせん



そう思いながら立ち尽くす部屋の前。どうして今日も灯りがついているんでしょう。
答えは簡単。昨日と同じ状況ですから。

「おう、おかえり」

ドアを開けて中に入ると、すっかり寛いだ修司が缶ビールを飲み干したところだった。そんな彼を見て、あたしは反射的に苦い表情を浮かべてしまった。瞬時に彼の顔が曇る。

「ごめん、来ないほうがよかった?」

そんなことないって笑って否定しなくちゃ。ちょっと驚いただけたよって。
でもあたしは伏し目がちに床に視線を這わせ笑顔をつくれないまま修司を見た。

「修司、悪いんだけど、あたし今日は……」
「また小説?」

途切れた言葉の先が形を失った。あたしが小説を書いていることを修司は知っている。でもどうしてこの流れで小説だと思ったのだろう。

「昨夜さ、夜中ずっとパソコンでなにかやってたろ? 明け方近くまでキー叩いてたよな? あれって講義のレポートってわけじゃないんだろ?」

少し低めた声。怒っている色ではないけれど、明らかに探るような響きが交じっている。突然、いらっとしてしまった。

「そうだよ、小説書いてた。あたしの趣味、修司にとやかく言われたくない」
「なんだよそれ。オレは心配してるんだよ! 大学も忙しいしバイトも多めに入れてる。それなのにたかが趣味で書いてる小説なんかで徹夜して寝不足で。具合悪そうだったから気をつけろって、おまえのサークル仲間から連絡あったぞ。今だって顔色悪いじゃないか!」
「たかが…………ってなに? 小説なんか……?」

ざわざわした嫌な感情が足元から這い上ってくる。この感情をそのまま言葉に載せたら、あたしとんでもないことを口走ってしまいそう。

「そりゃあ、修司から見たら“たかが趣味たかが小説”かもしれない。でもあたしは一生懸命書いてるの! 待っててくれる読者もいる。だからあたし書かないと……。ちゃんと書かないと!」
「なにが読者だよ! プロでもないのになんでそこまで自分を削る必要があるんだ!?」



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