恋凪らせん



サイト登録後、あたしが初めて書いた小説は、恋に奥手な大学生同士のベタな恋愛小説だった。それは恥ずかしいことに、自分と修司の恋愛がベースになっていた。体験そのままではなかったけれど、自分たちの恋の軌跡を思い出しては照れ笑いしながら書いていた覚えがある。

書くことが楽しくて、読んでくれた人からの反応に一喜一憂して、今よりもっと生き生きしていた。
修司との恋を形にしておきたくて書き始めた小説なのに、それらの小説のことで彼と諍っているなんて絶対おかしい。酒とゴムの女とか、バイト先のふたりの恋模様とか、人の恋愛を「ネタ」扱いして何様だ。羞恥で死ねそうな勢いである。

初心に帰ろう。無理せず楽しく書くことを大事にして、まず自分が楽しめるものを綴っていこう。今は埋もれていても、いつかきっと見つけてくれる誰かがいるから。

「美里、オレは小説やめろなんて言わない。楽しそうに書いてるの知ってるから。でもな、睡眠削ってふらふらになってる姿を見るのはイヤなんだ。頼むから、もっと自分を大事にしてくれ」
「……うん。ごめんなさい」
「オレもごめん。たかがとか、ひどいこと言った」

彼の腕の中で首を横に振る。そんなことを修司に言わせてしまったのはあたしだ。

「同じ寝不足でも、今度はオレが寝かさないからな……なんてどうだ?」

あー、惜しい! 「なんてどうだ?」とか訊かなくていいのに!
言った後、恥ずかしさに悶えるその仕草は合格だ。萌えがぐんぐん補給される。
フツーだろうがなんだろうが、好きな人と一緒にいるときがいちばん妄想してしまうんだろうな。

修司の腕に閉じ込められたまま、あれやこれやと妄想の限りを尽くす。創作熱が瞬間湯沸かし器のように一瞬で全開になる。
あたしはぱっと修司から身体を離し、彼の目を見て告げた。

「ごめん修司、あたし今から書くから」

彼は苦笑して「おう、がんばれ」と笑ってくれる。

あたしたちは自由だ。なにより自由な作家だ。そんなあたしたちの底力、限界まで引き出してみせる。

修司の背後に部屋の窓。夜空に光る丸い月。それはもう穴ではなく、夢追う誰をも照らすスポットライトのように輝いていた。




―― 了 ――



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