恋凪らせん



「もしもしお姉ちゃん?」
「はいはい、どうした?」
「あのさ、お姉ちゃんが部屋に置いていったワンピースとか借りていい?」

べつに姉妹間で時候の挨拶がしたいわけじゃないけれど、「元気?」とかもっとなにかないのだろうか。すぐ本題に入りすぎだと思う。
私は苦笑しながら、ワンピース? とオウム返しに訊きながら、実家に残してきた若い頃の服だと思い至る。

「かまわないよ。私には年齢的に厳しいデザインだし、好きに着ていいから」

そう答えると、和花は「やった!」と声を弾ませ、「ありがとう」と嬉しそうにトーンを上げた。

「なあに、デートに着てくの?」
「んー。まあそんなとこ」
「康平くんだっけ? うまくいってんの?」

同窓会で再会し、驚くほど趣味が合うことがわかって急接近したと言っていたっけ。そういうきっかけもいいなあなんて思う。和花は「大丈夫だよ」と照れくさそうに小声で告げて、「じゃあ切るね。ありがと」と話をたたんでしまった。
いつもなら「お姉ちゃんこそどうなの?」なんて反撃があるのだけれど、今日はうまく躱せそうにないから終わってくれてよかった。

羨ましいなと、ふと思った。あの子たちはまだ結婚とか考えずに、素直で自由な恋愛を楽しんでいる。ときめきに埋もれそうな毎日を送っているのだろう。

現実ばかりが透けて見えるアラサ―の恋に、あれこれ期待してはいけないのかもしれない。それでもやっぱり女だから、ドラマティックな展開や甘い台詞を求めてしまう心はある。
恋愛小説では埋められない隙間にそういうものを詰め込みたいのだけど、贅沢なのかな。

和彦は穏やかで優しい。自分が失敗をして人の痛みを知っているから、たいていのことは許容する。大らかで懐が深い。それを物足りないなんて、思いたくない。



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