恋凪らせん



びっくりして肩越しに振り返ると、和彦が今まで見たことがない挑むような強い瞳を三塚に向けていた。

「は? ホントに彼いたの? お告げは?」

だから最初からいるって言ってるのに! お告げなんか知るか!

私と和彦の間で視線を往復させた三塚は急に私から興味を失ったようだった。
「へえ」とか「ふうん」とか、性懲りもなく「お告げが」とかぶつぶつ言いながら、唐突に踵を返してまた社内に戻っていった。

「なんだアレ?」
「だからああいう人なの。話なんか通じやしない」

世の中いろんなやつがいるなあと苦笑する和彦の胸に背中を預けたまま、私はすごくどきどきしていた。腕が優しく前に回されて、ふんわりと後ろから抱きしめられている形だ。

「和彦、なんでここに?」
「あれ? LINE見てない? 大事な話があるから会社まで迎えに行く、って」

気づかなかった。三塚を振り切るための攻防のせいだ。

「ねえ、話ってなあに?」
「あ……うん、あとで……」
「ここじゃダメ? 今聞きたい」

戸惑う和彦の腕の中で体を反転させる。至近距離で向き合う態になり、視線がぴったりと重なった。この体勢にも、さっき三塚に投げた言葉にもときめきが溢れている。

今の私には面倒な現実はひとつも目に入らない。年齢も、離婚歴も、未来にくっついてくる厄介事も今はぜんぶ棚上げだ。私の目には和彦しか映っていない。

「僕たちお互い幸せな結婚に巡り会えなかった。でも、このことがなかったらきっと出会えなかった。だから……」

和彦はふっと目元を緩ませた。目尻にしわが寄って私の大好きな笑顔になる。その笑みをなぞるように微笑んだ私に、彼は未来に踏み出すための大切な言葉をくれた。



――――僕と幸せになってくれませんか?




―― 了 ――



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