恋凪らせん
名残惜しいなんてものじゃない。思わず縋るように視線を康平に向けた。
「二次会はー?」
「カラオケ行く人―」
「飲み足りない人はバーに行くよー」
二次会に誘導する幹事や、立ち上がって帰り支度を始めるみんなの動きを目で追っていた康平も物足りなさそうな表情を浮かべている。
このままみんなと二次会に流れてしまったら、康平とふたりで話す時間なんてなくなるかもしれない。
こういうとき、どうするのがいいんだろう。経験が少ないということは、思いつく選択肢が貧相だ。
「じゃあまたね」って別々に動く? せめて連絡先くらいは交換する?
あとは? どうする? どうする……?
「出るよー」という幹事の声に背中を押されてバッグとコートを手にする。康平もジャケットを羽織りながらこっちを見ている。
座敷を下りて靴を履いて、何となく隣に並びながらぐずぐずしていると、背中をぽんと叩かれた。驚いて振り返ると、少し化粧の崩れた京子が派手な赤いエナメルのバッグを抱えて立っていた。
「ねえ、ふたりで抜けちゃったら? すごく話に夢中だったよね。話し足りないんじゃないの? みんなには上手く言っとくからさ、抜けちゃいなよ。あたしもさ、彼が迎えに来るから二次会不参加で帰るし~」
京子はけっこうお酒が入っているようで、首筋まで真っ赤だ。
イケメンの彼が迎えに来るのか……と考えたけれどさっきのように羨ましい感情は動かない。
今は康平のことしか頭になかった。どうしたらもっと話せるか……と。
――――ふたりで抜けちゃったら?
京子の言葉がぐるぐる廻る。康平と顔を見合わせて戸惑っていると、京子が眉間に皺を寄せて腕を組んだ。
「んもう、面倒くさいなあ。もっと話したいんでしょ? ほら康平、連れてっちゃいな」
康平はきゅっと口を引き結ぶと京子に頷き、「行こう」と私の手を引いた。