恋凪らせん
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笑顔が増えたなあと、レジで接客する亜由美をちらりと見ながら美里は思う。男と来る例の女性客にもにこやかな対応ができていた。
こちらは特定の恋人ができたようで、もうとっかえひっかえではなくなり、いつも同じ男性と来るようになった。買っていくものも多様になり、同棲でもしているのかなという雰囲気だ。
だから、その女性を嫌う理由が亜由美になくなったということもあるが、やはりいちばんは田宮のせいだろう。
「ねえ亜由美ちゃん」
客がいなくなったのを見計らって声をかける。
「まだ田宮くんにいい返事してないわけ?」
「美里さん、焦らしって効果ありますね。美里さんの本にも書いてありますもんね」
同じバイト仲間で年下の田宮から熱い視線を送られ、最初はまごまごしていた亜由美だが、どうやら美里の書く恋愛小説を読んで何某かの技を身につけたらしい。
「ツンデレもいいかなって思うんですよ」
「……あんまり田宮くんをいじめないであげなよ~」
美里は苦笑して、ちらりと背後を窺った。恨めしそうな田宮がバックヤードで休憩中である。会話が聞こえていたのだろう。彼は拗ねたような表情で言った。
「美里さんの本のせいですからね。恋愛初心者の亜由美さんには刺激がありすぎるんだから。変な知識ばっかりついちゃって……」
そうやって口を尖らせたりする様子も、美里のネタになることを彼は知らない。
「美里さん、新刊また出るんですよね?」
「うん。今度は書き下ろしで出してもらえる」
「うわあ、楽しみです!」
「俺は怖いです!」
本気で涙目の田宮に、美里と亜由美は顔を見合わせて笑った。