恋凪らせん
―― * * * ――
「俺、緊張するからやっぱり……」
「大丈夫。ガーデンウェディングでカジュアルだから」
「ていうかさ、親族なのに和花は先に行ってなくていいのか?」
「大丈夫。四人兄弟だからひとりくらいいなくてもわかんないって。それとも私を先に行かせて逃げる気?」
「そんなわけないだろ」
困ったような顔の康平が可愛らしく見えて和花は笑った。
姉の麻子が再婚を決めたのは半年ほど前。お互い再婚同士だから派手な式は不要と、親族友人を少数呼んでのガーデンウェディングとなった。
麻子が「康平くんも連れておいで」と言ってくれのだと言っても、康平はなかなか首を縦に振らなかった。
行きたくないわけではなさそうなのに、なにかが彼を躊躇させているようだ。その正体がわからないままに強引に引っぱってきた和花だったが、会場に入り姉の姿をふたりで見た途端、理由がわかった。
康平が突然涙をこぼしたからだ。
「え……っ? 康平?」
「ダメなんだよ俺。冠婚葬祭に対して涙腺緩いんだ」
「葬はわかるけど、婚もダメなの?」
「麻子さん……和花にそっくりだから余計にダメだ。いろいろ想像して……」
その想像の部分をもう少し詳しくと和花は思ったが、康平は涙を堪えようといっぱいいっぱいである。そのとき、新郎新婦である麻子と和彦が満開の笑顔でやってきた。
「来てくれてありがとう~……って、どうして康平くん泣いてるの?」
「あー……えっと」
「もしかして、和花の花嫁姿想像しちゃった?」
懸命に耐えていた康平の瞳からまた新たな涙がこぼれる。こういう一面もあったのかとなにやら新鮮な気もちになった和花だが、これではどちらが親族かわかないというものである。
「康平くん、和花をよろしくね。花嫁衣装、着せてあげて」
「はいっ!」
間髪入れない康平の返事に周りがどよめいた。間接的なプロポーズにも聞こえ、和花は目を丸くする。
麻子たちがほかの友人たちの元へ行き、ようやく落ちついた康平は和花の手を握って目を合わせた。
「さっきの本気だから。いずれ、違う言葉で伝えるから」
一瞬きょとんと目を瞠った和花だったが、その意味がわかると、それは花が咲き零れるような鮮やかな笑顔でうなずいた。
―― 了 ――