恋凪らせん
手を引かれたまま店の外に出ると、髪が夜風をはらんでふわりと舞った。火照った頬にも心地いい。
まだ店の出入り口付近に集まって声高に話すみんなの横をふたりですり抜ける。「あれ二次会はー?」と追う声があったけれど、康平は振り返ることなくずんずん歩いていく。
つないだ手が熱い。顔も目の奥もなんだか熱い。
足元がふわふわする。お酒のせいだけじゃない気がする。
目の前には康平の広い背中。後頭部にぴょんと跳ねたくせ毛を見つけて、ふっと体の力が抜けた。
「康平……っ、待って」
足の力も緩んで康平の歩幅を追いきれず、私は彼に呼びかけた。康平ははっとしたように肩越しに振り返り、「ごめん」と立ち止まった。
「勝手に歩いて来ちゃったな。でも、からかわれたら悪いと思って。和花はみんなの憧れだったから、俺なんかと一緒じゃ……」
「憧れなんかクソ喰らえだから!」
康平を遮り、首を横に振った。
『あの頃おまえが好きだった』
今日、三回も言われたこの台詞に私はかなり心を削られた。憧れとか、高嶺の花とか、偽物の自分が独り歩きした挙句、私を嘲笑っているような気もちにさせられた。今の私を見てくれるわけじゃないのに「好きだった」なんて切ないだけだ。
本当の私は違うのに。でもそう思いながら確たるアクションも起こさずに、流されるまま「高嶺の花」の判を押された自分を他人事のように眺めていた自分だって悪いんだ。
「私、憧れてもらえるような女じゃないよ。けっこうガサツだし、口だって悪いとこあるし」
「知ってる。カレーパンは今も潰して食べてんの? 袋ごと叩いてさ」
あのときのこと、憶えててくれたんだ。驚いて目を瞠った私に、康平はやわらかく目を細めた。