彼女達の事情
「ちょ!待て、一之介っ!」
そう言って、歩立が慌てて一之介の後を追い、店を出る。
二三も席を立つ。
二三は、落ち着いた風にカップルのテーブルに近づくと、まだ自分の状況がわからずに、呆気にとられている彼女を見下ろし、低い声で言い放った。
「あんた、下の下だな……」
それだけ言うと、二三は、カップルから離れ、会計を済ませて、もう店を出てしまった友人達の後を追った。
三人が去った店内で、彼女は、なんとも言えない顔をして、彼らの残像を見つめながら、「下の下……」と、つぶやいた。
人混みをかき分けて、街の中を疾走する一之介の背中を、歩立が追いかける。
歩立は、前に進む度に、通行人にぶつかり、その度に「スイマセン」と謝っている。
「待てって一之介!おいっ!」
歩立は、後を追う自分を振り返りもせずに走り続ける一之介の背負うリュックに手を伸ばすと、それをぐいっと引っ張った。
その反動で、一之介は「グエッ!」と言いながら仰け反り、そして、足を止めた。
一之介も、歩立も、全力疾走した疲れが一気に出たらしく、ゼイゼイ言いながら、肺に空気を送り込んだ。
「一之介、大丈夫か?」
なんとか呼吸を整えて、そう言った歩立だったが、俯いている一之介を見て「大丈夫……な訳ないよな」と、気まずそうに呟く。
俯いているから、歩立には、一之介がどんな顔をしているのか分からなかったが、一之介から漏れている嗚咽が、彼が泣いているのだという事を、歩立に告げていた。
そう言って、歩立が慌てて一之介の後を追い、店を出る。
二三も席を立つ。
二三は、落ち着いた風にカップルのテーブルに近づくと、まだ自分の状況がわからずに、呆気にとられている彼女を見下ろし、低い声で言い放った。
「あんた、下の下だな……」
それだけ言うと、二三は、カップルから離れ、会計を済ませて、もう店を出てしまった友人達の後を追った。
三人が去った店内で、彼女は、なんとも言えない顔をして、彼らの残像を見つめながら、「下の下……」と、つぶやいた。
人混みをかき分けて、街の中を疾走する一之介の背中を、歩立が追いかける。
歩立は、前に進む度に、通行人にぶつかり、その度に「スイマセン」と謝っている。
「待てって一之介!おいっ!」
歩立は、後を追う自分を振り返りもせずに走り続ける一之介の背負うリュックに手を伸ばすと、それをぐいっと引っ張った。
その反動で、一之介は「グエッ!」と言いながら仰け反り、そして、足を止めた。
一之介も、歩立も、全力疾走した疲れが一気に出たらしく、ゼイゼイ言いながら、肺に空気を送り込んだ。
「一之介、大丈夫か?」
なんとか呼吸を整えて、そう言った歩立だったが、俯いている一之介を見て「大丈夫……な訳ないよな」と、気まずそうに呟く。
俯いているから、歩立には、一之介がどんな顔をしているのか分からなかったが、一之介から漏れている嗚咽が、彼が泣いているのだという事を、歩立に告げていた。