彼女達の事情
「えーっとぉ……」

ものすごく気まずい状況に、歩立は困った顔で、一之介を眺める。

(ううううっ、通行人の突き刺さる視線が痛すぎる!)

俯き、なんとか涙を殺そうとしている友人を目の前にして、歩立は、自分は一体どうしたらいいのか悩んだ。

こんな時に使える気の利いた台詞があるなら、誰でもいい、ぜひ教えて欲しいものだと歩立は思った。
けれど、一之介と歩立を興味津々で眺めている通行人たちは、気の利いた台詞なんて教えてはくれず、ただ、見ているだけだ。

(全く、見せもんじゃあねぇっての!)

歩立は、深くため息を吐いて、一之介を見る。

「なぁ、一之介、頼むよ、泣くなよ、なっ?あんな女と縁が切れて良かったじゃん?なぁ、顔を上げろって、俺たち、通行人に見られてるぜ!なっ、ほら!」

優しい口調で、そう言う歩立の台詞を聞いて、一之介は、小さく頷くと、手で涙を拭きながら、顔を上げる。

一之介の目は、泣いていたからだろう、真っ赤で、鼻から少し鼻水を垂らしていた。

「うっ!一之介、お前、鼻水!汚ねぇよ!早く拭けよ!」


「うっ、うるさいよ!鼻水くらいっ……なんだって言うんだよっ……ゔゔっ」

着ているパーカーの袖で鼻の下を擦りながら、目に涙を溜めて言う一之介に、慌てて歩立は誤った。

「ああああっ!ゴメンゴメン!そうだよなっ!鼻水くらいなんてことねぇよな!悪かったって!泣くなよ!おいっ!」

歩立は、これ以上、好奇の目で他人に見られるのは耐えかねると感じて、とにかく一之介に泣き止んでくれと頼んだ。
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