よるのむこうに
「おい、そうめんにサクランボいれるなって」
そうめんの上に浮かべた赤いサクランボを見て、天馬は眉をしかめた。
「どうして。きれいでしょ」
悪いが私はそうめんにサクランボを浮かせるのが好きだ。私の実家はそうしていたし、私が作ってるんだから文句は言わせない。
「メシにきれいとか求めてねえよ」
天馬はそういうと、サクランボの軸を水の中から摘み上げて私の唇にサクランボを押し付けた。
「お前が食え」
「一回くらい試してみたっていいでしょ、おいしいんだか、」
天馬は有無を言わせず私の口の中にサクランボを押し込んだ。
「もおお、一回くらい試してって言ってるのにどうしてアンタはっ……食わず嫌いだよそれ」
「食わず嫌いじゃねーよメシに果物を入れるなっつってんの。……いただきますっ」
私の返事を封じるように彼は手をあわせてそう言い、ズルズルと麺をかきこんだ。
文句は言うが、人一倍食べるのだ。
私はそんな彼の横顔を見つめた。
大きくてきつい目にかかる長い前髪はいつの間にか彼のものになってしまった私のピンで留められている。
確かピンの使い方を教えたのは私だった。ピンだけじゃない、天馬は器用なくせに変なところは不器用で、二年前はお箸の持ち方だって変だったし、洗濯機の使い方も知らなかった。その上、今よりもずっと口が悪かった。