よるのむこうに

私は天馬や彰久君のようにもてる人間ではない。やましいことは何もない。

けれど、先日、彰久君と連絡を取ったときの発着信履歴が残っている。
天馬は私の携帯をチェックするようなことは今まで一度もなかったし、今までの彼氏も私を疑う人はいなかった。だから携帯を調べるとか調べられるという状況に陥ったことはない。
それがゆえに私の携帯はロックもかかっていなければ発着信履歴も手付かずだった。

「ちょっと、天馬。そういうのってプライバシーの」

天馬は私の言葉を手でさえぎると、リビングに置きっぱなしの私のバッグから携帯を出した。


「天馬、やめて。男なんていない。私達の間のことで人に迷惑をかけないで」


彼は私の言葉を無視して携帯の発着信履歴をざっと見て、次にメールボックス、通信アプリを次々に開いていった。

ああ、携帯に暗証番号を設定しておかなかった私が馬鹿だった。天馬がこんな事をするなんて。


「天馬、やめて。好きな人ができたとかそういうことじゃないの、これは私の……人生っていうか、キャリアプランの問題であって」

やはり大事な事を話さずに相手を説得するのは難しい。
とくに、天馬は言葉そのものの意味よりも言葉を発する人間の態度や雰囲気で物事を理解しているようなところがある。


彼は私が嘘をついている、そう直感しているのだろう。私は必死で彼を言葉でごまかそうとするのに、全く通用しない。
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