よるのむこうに
天馬はただでさえ恐ろしい目で彰久君をにらんだ。けれど彰久くんは天馬の感情的な態度に離れているのか、眉一つ動かさない。
「落ち着けって……。
お前はホント馬鹿だな。俺がそんなことするわけないだろ。
もっとも、お前がそんな調子で夏子ちゃんをいたぶるなら俺にも考えがあるけどな。
……大丈夫、夏子ちゃん」
私はかなり年下の若い男の子に痴話げんかのこじれた姿を見られてしまい、恥ずかしくてまともに彰久君の顔を見ることが出来なかった。
天馬に馬乗りになられたまま、私は小さく謝った。
「大丈夫。ごめんね、仕事中だったんでしょ」
「いや、今日は女のところ。
……夏子ちゃん、コイツは馬鹿だけど、好きな女に嘘をつかれてわからないほど馬鹿ではないんだよ。
諦めて……ちゃんと本当のことを話したら」
彰久君は天馬の背中を足で蹴った。が、彰久君よりも大きくて筋肉質な天馬はびくともしない。
「本当のこと……?お前ら、コソコソと……俺をなめてんのか」
くすぶっていた天馬の怒りにまた静かに灯がともったようだった。
「なめられるような姿しか見せてこなかったお前が悪いんだろ。
夏子ちゃんを責めるな。夏子ちゃんはな」
彰久くんはため息をついて私の転がっている辺りにしゃがみこみ、天馬をにらんだ。
「彰久君、やめて。言わないで」
彰久くんは袖を引く私を大きな瞳で見つめた。