よるのむこうに
彼が他人の私の病気をわざわざ調べてくれたんだと思うと、私はそれだけで申し訳ないような、嬉しいような情けないような、そんな気持ちになった。
しっかりしてはいても彼は私よりもずいぶん若いのに。
彰久君は今頃になってようやく自身が前髪をシュシュで留めたくつろぎスタイルであることに気がついたようで、前髪のシュシュをとりながらそう言った。
「夏子ちゃん、マジで大丈夫?
助け起こそうにもどこを持って起こせばいいのかもわかんねえや。
病院行く?車できたから今なら送って行けるけど」
「……」
天馬は私の上に跨(またが)ったまま、私の脇の下に手を入れて自分の下から引き抜くようにして私の体を持ち上げた。
彼もまた怒っているような困っているような、なんともいえない表情を浮かべていた。
「病院なら俺が連れて行く」
「ハァ?お前車ないだろ、何言ってんの」
「俺がやる。こいつのことは俺がやる。俺の女だからな」
彰久君は大きな瞳で天馬を見据えた。彼の気持ちを量るように数秒、彼はじっと天馬を見つめていたけれど、やがて小さくため息をついた。
「……そう思うなら夏子ちゃんに甘えるなよ。本気で呆れるわ。
……じゃあ、俺、邪魔みたいだからもう行くわ。
天馬、自分でやるっつった以上、みっともないまねすんなよ。
じゃあね、夏子ちゃん、『またね』」