よるのむこうに
天馬は私の恥じらいなどどうでもいいようだった。
彼は何度も私の膝に触れ、水の溜まった関節に何度か指を押し当てては肌に指のあとが残る様子に驚いている。
「これからやるときは俺が上のほうがいいよな。膝、半分も曲がらないみてーだし、手も痛いんだろ……って、今までも大体俺が上か」
病人にセクハラか。
「天馬、聞いてる?」
彼のあまりな発言にイライラして彼をにらみつけると、天馬は私が思うよりもまじめくさった顔をしていた。
「おう。これからは気をつけるわ。俺もお前が痛いのは嫌だ」
「何言ってんの!!」
私はご近所に対する恥ずかしさとバツの悪さと天馬に対する怒りを我慢できず、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「病人にこんなことするなんて!!変態!死ねッ!」
私は手を振り上げて天馬の背中や肩を叩きまくった。だが筋肉質で堅い彼の背中を叩いても自分がダメージを食らうだけで天馬はびくともしない。むしろリウマチを患って関節が腫れている私の手のほうに響くような痛みがある。
しかしそれでも人間怒るときは怒らねば。この男は基本的に動物なので言葉で言ってもわからんのだ。鉄拳制裁あるのみ。
彼は怒り狂って殴りかかる私の手首をあっさりと受け止めてにやりと笑った。